IMG Academy滞在記⑵
「テニスの素早い進化に」
IMGAコラム
2023 IMG Academy Discovery Open Tennisでは、参加したどの国の選手たちも個性に満ちた、自由な発想のテニスに終始していることにあった。フォームも戦術も多様で、次にどのようなショットを繰り出すのか、プロの試合にも負けない、奔放さがちりばめられている。テニスの上達にはすでに滞在記⑴でお話しした通りだ。
勉強では物事や社会の成り立ちについて基盤つくりを学校で学ぶのと同じように、テニスについてもプレイヤーの基盤となるフォームや体力つくりを日々の練習で重ねている。
とすれば「どこにゲームや勝利の差いかんが決まるのだろうか。」
テニスにとって大切な要素として、技術・体力・戦術があるのは承知していることと思う。そして、現代テニスがそれらの安定性とスピード・パワー力が加わってゲームは展開すると私は伝えてきた。そのうえでここ10年間はDiversity/多様性ということが加わってきた。
つまり、プレイヤーは、攻守を持ちながら、ネットプレーヤー・ベースライナーというスタイルに評示されてきたが、今や、世界のトップを見る限りすべてのこれらの評示を有していなければならないというエポックに入っている。All Court PlayerとIMG Academyが表現するように。実は、世界はこれらの要素を取り入れて日々のトレーニングに取り組んでいる。
ITF国際テニス連盟がかつてからFormよりGameと提唱してきたのはこのことであるが、ただしく理解してもらいたい。
もう一度繰り返す。「どこにゲームや勝利の差いかんが決まるのだろうか。」私は考える。才能というカテゴリーには、先天的なGiftedとトレーナビリティーにより開花できるTalentedがある。これは、もう30年前にドイツのリチャード・ショーンボーンの著書に記されていたことである。その、Giftedの8要素に「知性」という大切な要素がある。知性は「創造性」に、創造性はインテリジェンスと言われる「戦略・戦術」に育まれている。
さて、この戦略に従った戦術の展開こそゲームや勝利の差につながる。囲碁や将棋のようにどれだけの手の内になる石や駒を持っているかに似ている。
それは、テニスは相手という存在に対して、「咄嗟的」な「判断力」により「もちうべき、どのようなショットを駆使し展開するのか」、それも瞬時に発揮するためにはどうすべきなのかに象徴されるスポーツであると私は考える。
テニスの歴史をスピードという観点から振り返ってみると、マクロ的に見て、1945年を境にしてあらゆるスポーツはスピード化した。それはコーチングの科学的な発展、日常的には新しい素材を活用した用具の研究によりもたらせられたものがいかに合理的・効率的にワンショットに発揮させることにつながった。そして、ゲームの進め方がよりゲームをスピード化したミクロ的な視点からすれば、ポイント間らある秒単位の許容性にもスピード化に影響をもたらした。
想像力と創造力に満ち溢れるこのGolden Ageと呼ばれるこの時期にIMG Academy Discovery Open Tennisは開催される。そこに集まるユースたちは自由奔放な想像性と創造力が輝いている。
彼らを支える私たちのミッションが分かってくる。ニックは教えてくれた。「決められた方法は一つではない、いろいろとあってよい」と。テニスへの取り組み方、人生の生き方、それらは多様である。この多様性/Diversityをテニスにとらえて教えてくれたのがニックである。
大会の最終日、ニックの立像のあるStadium Courtで香川荘太が一位の順位を決める彼のゲームを見せてくれた。そして、瞬時に「競うことができる環境を作ること」と再確認させてくれた荒井貴美人の言葉を思い出した。
Stadiumコートの最上段でIMG Academyのキャンパスを見渡した時、Nick Bollettieriの偉大さが言葉だけでなく、なしえた広大な創造力に驚異させられた。
2023/5/8
IMG Academy滞在記⑴
半年ぶりにIMG Academyにやってきた。自宅に戻ったような、40年前に初めて訪れた時のようなデジャブを感じた。
今回は、IMG Academy Discovery Open Tennis大会の参加に同行して、まぶしい太陽の光に満ちたテニスに打ち込むならこの環境というIMG Academyキャンパスに来た。
少しこの大会について説明しておこう。2015年にスタートしたこの大会は、将来、テニス界において活躍が期待されるジュニア選手の発掘のために開催されている。日本からは、第一回目の大会から、加古川市にあるTop Athlete Fellowshipが行う国内予選を通過した16.14.12歳以下の男女の選手が参加し続けている。毎年好成績を残し、2019年には全種目を日本チームが優勝している。今年は、コロナ禍で3年ぶりの大会が、8か国の代表選手を集めて5月1日よりスタートして週末には結果が報告される。今年のスケジュールは、午前中にレッスンがあり、午後から3セットマッチを毎日ラウンドロビン戦によって展開される。
大会の様子については報告⑵以降にお知らせするが、本報告⑴の内容は錦織圭プロのスパーリングに似たオンコートでの様子から始まる。
テニスを50年以上にわたって見てきた私を唸らせるショットの連続だ。唸らせるとは、美しさ・華麗さ・力強さ・スピード・パワーを身体にまとわせたショットの連続だ。そして、ぶれない。なぜか。私は思う。諸要素をまとわせる一球に対して、「ここに打ってほしい。このような種類を混ぜあわてほしい。といったショットを見せてくれるところにコアーなものがあるからだ。
まだまだ大会での活躍を期待したい錦織プロのテニスを見てほしい。
本大会の初日にIMG Academyは選手たちのためにバンケットを開催してくれた。招待を受けた参加国の選手たち、家族やコーチたち、Nick Bollettieriの知的レガシーであるIMG Academyのコーチたち、そして、錦織圭プロのゲストが出席したバンケットで、これからの日々の活躍をいやおうにも掻き立ててくれた。
トーナメントディレクターの司会で、まず、関係の言葉から始まり、IMG Academyテニスのディレクターで元世界5位のジミー・アリアス氏が大会の意義と成長期にある選手の皆さんにスピーチ、続いてダブルスで元世界1位・シングルス17位のマックス・ミレニィ氏、そして、世界最高位ランキング4位の錦織圭プロが続いてのスピーチがあった。
三名のスピーカーの要点は、
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皆さんの年齢にあるこの時期に世界が求める正しく美しいテニスを身に付けよう。
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日々の細かな努力を積み重ねよう。チャンピオンを目指すことも夢として大切だが、自分のトップを極めるのに10年以上の積み重ねが必要で、気が付くとツアーで輝くようになっていた。錦織プロの練習を見ていて、これだとあらためて気が付いた。ハイボレーの瞬間のネット際で両手の指先からつま先までピンとした瞬間をカメラの眼のように私は張り付けた。これは、今すぐに皆さんにできるものではない。積み重ねたトレーニングや世界のツアーで得た「自然の成果」だと思う。
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そして、何よりもテニスは相手がいて成り立つもの。互いの友情を育む力が、相手をリスペクトでき、その反射としてリスペクトされる。IMG Academy Discovery Open Tennisのもう一つの大きな意義がここにある。
2023/5